アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎の原因
皮膚が乾燥しやすい遺伝的な体質と環境要因により皮膚のバリア機能が破壊されてしまいます。皮膚のバリア機能が弱くなると、外からの刺激が入り易くなり、その結果皮膚の炎症やアレルギー反応が起こってしまいます。これによりかゆみを生じて、皮膚を掻きこわすことで更に皮膚のバリア機能が低下するという悪循環となります。
環境要因としては、温度や湿度、ダニ、細菌、刺激がある服装、発汗、感冒、精神的なストレスなどがあります。
アトピー性皮膚炎の症状
かゆみを伴う湿疹を左右対称性に認め、乳児期では頭部や顔から始まり、体幹や四肢に広がります。また、幼小児期では頸部、四肢の関節部、思春期では上半身といった部位に現れる特徴があります。湿疹は急性期と慢性期で症状が異なりますが、わかりやすく言うと、赤い、ざらざらしている、ジュクジュクしている、かさぶたがある、皮膚がボロボロ剥がれ落ちるなどが多いです。治療により一旦は良くなりますが、すぐに同じ場所に同じような湿疹が起きることが特徴です。
皮膚のかゆみがひどい場合は日常生活に支障をきたし、夜に寝られなくなる場合もあります。かゆみがなく、常に皮膚がツルツルスベスベになっていることが本来の健康な皮膚の状態です。漫然と皮膚をボリボリ掻いている、湿疹が出たり引っ込んだりしている状況を見過ごさずに、早めに受診するようにしましょう。
アトピー性皮膚炎の治療方法
治療を行う上で重要なことは、医療者と患者本人・親御さまとの間で治療の目的や目標を共有しておくことです。「シャワーに入ってください」、「薬を塗ってください」と言うことは簡単ですが、適切なスキンケアや外用療法はとても手間がかかります。アトピー性皮膚炎の治療は、特に幼児期までのお子さまの場合、ほとんどのケアや対応を親御さまが行うことになります。そういった親御さまの負担にも考慮しながら、より良い治療方法を相談し、選択していくことが重要です。アトピー性皮膚炎における外用療法は、皮膚の炎症やかゆみを速やかに抑えるための寛解導入療法と、皮膚の炎症が改善した状況を維持する寛解維持療法の2つがあります。
また、アトピー性皮膚炎の治療は①スキンケア、②薬物療法、③環境要因への対策、の3本柱を同時に行うことが必要になります。
スキンケア
適切なスキンケアとは、石鹸を使用して正しく洗うこととしっかり保湿することの両方が必要です。石鹸で洗う目的は、アトピー性皮膚炎やとびひの発症や悪化の原因になる黄色ブドウ球菌を減らすためです。
アトピー性皮膚炎の治療においてスキンケアは手間がかかり、おろそかになりがちですが、後で述べる薬物療法と同じくらい重要です。特に重度のアトピー性皮膚炎の場合は、1日2回シャワーに入ることを推奨しています。スキンケアが不十分な状態で薬物療法を行っても効果が得られないことも多々あり、不必要に副作用の強いステロイド外用薬を処方されてしまう原因にもつながります。適切なスキンケアの上に、薬物療法が成り立つということを理解しましょう。
石鹸で洗う
よく泡立てた石鹸(泡タイプでも可)を使って素手で全身を洗います。たるみやシワもしっかり伸ばしてもむように洗いましょう。石鹸が残らないように長い時間かけてすすいだ後に、タオルで優しく抑えるように拭きます。擦って拭いてしまうと皮膚を傷めてしまうので注意しましょう。
保湿をする
保湿剤には様々な種類が存在しますが、アトピー性皮膚炎に対する治療としてはヘパリン類似物質というものが含まれている保湿剤が適しています。ヘパリン類似物質が使用されている保湿剤にも色々な形状がありますので、季節によってストレスなく塗れるものを選びましょう。乳液や化粧水タイプのものは使用量が少なくなりがちですので、意識してたっぷり使用しましょう。軟膏やクリームタイプの保湿剤では使用量の目安があります。大人の人差し指の第1関節まで出すと、手のひら2枚分の面積になります。また、全身に塗る際にもう少しわかりやすい指標として、乳児で小さじ1杯、3~5歳で小さじ2杯、10歳で小さじ3杯、中学生で小さじ4杯を目安としてください。保湿の回数として1日2回以上が理想ですが、昼間は現実的に難しいこともあり、朝晩2回は必ず保湿しましょう。また、容器に入った保湿剤を使用する際に直接指を入れて取る方がいますが、容器の中で細菌が繁殖しやすいため、清潔な小さじスプーンなどを用いて使用する分だけ取り出してから塗るようにしましょう。
薬物療法
基本となるのが抗炎症外用薬です。現在(2025年10月時点)、小児のアトピー性皮膚炎に使用される外用薬は全部で5種類あります。月齢や年齢により使用できるもの、できないものもありますので患者様にあった外用薬を選択していきます。
ステロイド外用薬
外用薬のメインとなるのがステロイド外用薬です。皮膚の炎症や痒みを取る寛解導入療法には一番適しています。日本で処方されるステロイド薬は5段階あり、皮膚の状況により強さを選択していきます。ステロイドについては副作用を心配される方も多くいますが、適切な強さ、期間を守れば副作用を心配する必要はありません。長期間、強いランクのステロイド外用薬を使用し続けると、皮膚が薄くなる、皮膚線条、多毛、毛細血管拡張、酒さ様皮膚炎などの局所的な副作用を来たすことがあります。
タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏®︎)
2歳以上の子どもに使用できる外用薬です。ステロイドに見られる副作用は認めないため、ステロイド外用薬で症状が改善した後の寛解維持療法に使用したり、ステロイド外用薬の副作用がみられた際に変更することがあります。また、タクロリムス軟膏の注意点としては、使用後にヒリヒリした灼熱感や痒みが出ることがあります。徐々になくなっていくことが多いので、耐えられる場合は継続していきましょう。
デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏®︎)
生後6か月から使用できる外用薬です。タクロリムス軟膏と同様に副作用が少ない外用薬です。ステロイド外用薬に比べると抗炎症作用は弱いため、寛解維持療法で用いられることが多く、長期に使用すればする程効果が安定していきます。使用に際しての注意点としては、1回あたりの使用量が5gまで、体表面積の30%までという制限がありますので、必要な箇所に限定して使用します。
ジファミラスト軟膏(モイゼルト軟膏®︎)
生後3か月から使用できる外用薬です。タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏と同様に副作用が少なく、ステロイド外用薬より抗炎症作用は低いです。一度に全身塗布しても問題なく、塗布後の刺激感もないので乳幼児にも使用しやすい外用薬です。ジファミラスト軟膏も寛解維持療法で用いられることが多いです。
タピナロフ軟膏(ブイタマー®︎)
12歳以上の子どもに使用できます。上記の外用薬は、基本的に1日2回の塗布が必要になりますが、タピナロフ軟膏は、1日1回の塗布で効果が得られるという特徴があります。思春期の子どもの場合は、1日2回塗布のハードルが高いこともあり、患者様の状況に応じて選択される外用薬です。タピナロフ軟膏も、基本的には副作用を気にせず使用できます。
現在、アトピー性皮膚炎の治療として内服薬や注射薬もあります。一般的には、適切なスキンケアと外用療法でも改善しない方に適応があると考えられています。原則として、これらの治療が必要な場合は、連携医療機関にご紹介させて頂きます。
環境要因への対策
服に関しては、肌触りのよい、チクチクしないものにしましょう。
暑い時期に大量の汗をかいて、そのまま放置するとアトピー性皮膚炎が悪化することがあるため、こまめに汗を拭き取る、衣類を着替える、可能な範囲で早めにシャワーに入ることなどをお勧めします。
家の中のダニがアトピー性皮膚炎の悪化因子になることがあります。寝具やカーペットに対して掃除機などを使用して対策し、家の中の湿度も高くなりすぎないように(湿度45%以下目安)しましょう。
アトピー性皮膚炎を発症している場合、ペットも悪化の原因になります。現実的に飼っているペットをすぐに手放すことは難しく、アトピー性皮膚炎の治療も難渋するケースもあります。頻回にペットを洗う、寝室などの長時間過ごす環境には一緒にいないなどが対策にはなりますが、必ずしも防げるわけではありません。
環境整備に関しては、ストレスのない範囲でできる限り行うことが大切です。外用療法が順調に進んでいるケースでは、そこまで神経質ならなくても良いと思います。
塗り方のポイント
外用薬は、保湿剤と同じようにたっぷりと塗ることが大切です。湿疹のある皮膚は表面がでこぼこしているため、薬を薄く塗ってしまうと必要な部分に十分に届かず、効果が出にくくなってしまいます。塗った後の目安としては、ティッシュペーパーを貼り付けても落ちないようにたっぷり塗りましょう。
また、アトピー性皮膚炎の治療では、プロアクティブ療法と呼ばれる方法が現在の主流です。これは、症状がよくなってきたからといって急に塗るのをやめるのではなく、皮膚の中に残っている炎症をしっかり抑えるために、外用薬の使用頻度を少しずつ減らしていく方法です。目で見えない皮膚の下の炎症までしっかりと改善する必要があるため、外用薬の塗布頻度を長い期間かけて少しずつ減らしていきます。ステロイド外用薬を長い期間使用すると副作用が心配になる方もいるとは思いますが、適切なステロイドの強さと使用期間を守り、徐々に使用量や頻度を減らしていくことができれば、副作用のリスクは非常に低く抑えられます。さらに、前述のステロイド外用薬以外をうまく併用することで、ステロイド外用薬の使用頻度を更に早く減らしていくことができます。お子さま1人1人の皮膚の状況に合わせて治療方針を決めていきます。
アトピー性皮膚炎のよくある質問
保湿剤と外用薬を一緒に塗る場合の方法はありますか?
保湿剤と外用薬を併用する場合は、原則どちらを先に塗っても効果は変わらないとされています。湿疹の範囲が広くない場合は、全身に保湿剤を塗った後に必要な箇所に外用薬を上塗りする方法を取ってもらい、湿疹が広範囲にある場合は、保湿剤と外用薬を混ぜたものを塗ってもらいます。保湿剤と外用薬を混合することについては否定的な意見もありますが、デメリットにも配慮しつつ、毎日子どもに外用薬を塗る親御さまの負担を考えて当院では処方しています。
石鹸で洗うことは逆に良くないでしょうか?
石鹸を使用することで皮膚が乾燥しやすくなるということは事実です。しかし、アトピー性皮膚炎による皮膚症状がしっかりある場合は、石鹸で洗浄し、保湿剤や必要な外用薬を使用した方が皮膚症状の改善が得られることが多いです。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係はありますか?
以前は食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因になるとされていました。しかし、現在では逆にアトピー性皮膚炎があると食物アレルギーになるということがわかってきました。バリア機能が弱くなった皮膚から食物抗原が侵入してしまい、食物アレルギーが発症するリスクが高くなります。特に、まだ多くの食材を摂取したことのない乳児期にアトピー性皮膚炎を発症している場合は、速やかに皮膚症状を改善させることが重要です。さらに、食物アレルギーの治療に際しても、アトピー性皮膚炎の治療が順調に進んでいることが必要不可欠です。
ステロイド外用薬以外の外用薬の選択方法はありますか?
現時点で明確な使い分けはないとされています。それぞれ皮膚症状が良くなる過程が異なるため、そもそも比較することが困難とされています。実際の現場では、外用薬を変更することで皮膚症状が改善するケースもありますので、状況に応じて外用薬を選択していきます。